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かわら版Media

世界と日本の比較で読み解く保険業界の構造変革:生損保の融合と「予防」へのシフト

2026.03.09

企業保険

はじめに:変化の時代を迎えた保険業界


保険業界は、かつて「生保(生命保険)」と「損保(損害保険)」という明確な二分軸の下で、それぞれ「人の生命や健康」「モノや財産の損害」という異なるリスク領域を担ってきました。しかし、デジタル技術の進展、顧客ニーズの多様化、そして気候変動やサイバー攻撃といった新たなリスクの増大を背景に、この伝統的な境界線は世界的に薄れつつあります。

さらに、保険の役割そのものが、「保障(Compensation)」から「予防(Prevention)」へシフトしています。この「生損保の融合」と「保障から予防へ」という二つの潮流は、単なるトレンドではなく、保険業界のビジネスモデルそのものを根底から覆す構造変革になるのではないでしょうか?

本記事では、世界と日本の動向を比較しながら、この構造変革の背景と、今後のインパクトを解説します。

第1章:伝統的役割の限界と市場環境の変化

1.1. 生保と損保の伝統的な役割分担
従来、生命保険は「人の生死や病気、老後」といった長期的なリスクに備える保障を提供し、損害保険は「自動車事故、火災、自然災害、賠償責任」など、偶発的な事故による経済的損失を補填する役割を担ってきました。日本では、保険業法によって生保と損保の免許は明確に分離されており、原則として一つの会社が両方の事業を兼営することはできません [1]。この規制が、両者の事業領域を明確に分けてきました。

1.2. 市場環境の変化と共通の課題
世界中の保険会社が、事業領域を問わず共通の課題に直面しています。少子高齢化による市場の成熟、長期化する低金利環境、そして自然災害の頻発化です。

特に日本は、世界に先駆けてこれらの課題が深刻化しています。生命保険市場は国内の人口減少を背景に飽和状態であり、新たな成長機会の創出が急務となっています。損害保険業界も、大規模な自然災害の増加により、保険金の支払いが収益を圧迫する構造的な課題を抱えています [2]。

市場環境の変化世界の動向日本の状況影響
先進国の市場成熟度先進国市場は、
生保、損保ともに飽和傾向。
世界第3位の市場規模(約2,366億ドル、2024年)を誇るが、成長率は鈍化 [3]。従来のビジネスモデルでは成長が困難。 新たな収益源の開拓が必須。
リスクの多様化気候変動、サイバーリスク、パンデミックなど新しいリスクが顕在。自然災害の頻発化が特に深刻。伝統的な生保・損保の枠組みでは対応しきれないリスクが増加。
デジタル化の進展AI、IoT、ビッグデータの活用が進み、インシュアテック企業が台頭。デジタル化は進むものの、レガシーシステムからの脱却が課題。顧客接点のデジタル化、データに基づいた商品開発やリスク評価が不可欠に。

これらの課題を背景に、従来の生保・損保という垣根を越え、新たなビジネスモデルを模索する動きが世界的に加速しているのです。

第2章:「生損保融合」と「予防」へのシフト

2.1. 世界で加速する「生損保融合」
世界市場では、生保と損保の融合が様々な形で進んでいます。その背景には、顧客が「個別の保険商品」ではなく、「自身のライフステージや事業活動全体のリスクを包括的に管理するソリューション」を求めるようになったことがあります。
このニーズに応えるため、保険会社は従来の垣根を越えた商品・サービスを提供するようになっています。例えば、欧米では、生命保険会社が健康増進サービスやウェアラブルデバイスと連携したプログラムを提供し、病気の「予防」に積極的に関与しています。これは、健康になれば死亡率や入院率が下がり、生命保険の支払いリスクが減少するという、生保事業の経済合理性にも合致しています。

一方で、損害保険会社も、IoTセンサーを活用して工場の機械故障や建物の水漏れを予知するサービスを提供するなど、「事故の予防」に力を入れています。これにより、両者のビジネスモデルは「リスクの発生を予測し、未然に防ぐ」という点で共通化し、融合が進んでいるのです。

2.2. 「保障から予防へ」:新たな価値創造の源泉
「予防」へのシフトは、保険会社にとって新たな収益機会を生み出します。従来の保険料収入に依存

するモデルから、リスク予防サービスを有料で提供することによる手数料収入への転換です。Deloitteの予測 米国の損害保険市場において、予防サービスなどによる手数料ベースの収益は、2023年の216億ドルから2030年には495億ドルへと、年平均12.55%の成長を遂げると予測されています [4]。

顧客にとっても、保険金を受け取るだけでなく、そもそも損害や病気を回避できるという、より本質的な価値を享受できるメリットがあります。

2.3. 日本における挑戦と可能性

日本では、前述の通り生損保の兼営が規制されているため、欧米のように一つの会社が両分野のサービスをシームレスに提供することは容易ではありません。しかし、グループ会社間の連携や、異業種パートナーとの提携を通じて、実質的な融合と予防サービスの提供が進みつつあります。

例えば、SOMPOホールディングス傘下のSOMPOひまわり生命保険が、2020年に「原則全ての個人保険商品を健康増進型に切り替える」と宣言し、「インシュアヘルス」という健康増進型保険を全面展開しています。この保険は、血圧や体重などの健康状態の改善で保険料を引き下げる「健康☆チャレンジ!制度」を導入しており、健康・医療相談、人間ドック紹介、専門医相談などの「SOMPO健康・生活サポートサービス」を提供といった動きが見られます。 しかし、世界の潮流と比較すると、日本の動きはまだ限定的と言わざるを得ません。特に、予防サービスを新たな収益源として確立するビジネスモデルの構築は、今後の大きな課題です。

第3章:エンベデッド保険(組み込み型保険)という新たな潮流

生損保の融合と予防へのシフトを象徴する具体的な動きとして、「エンベデッド保険(組み込み型保険)」が世界的に急速な広がりを見せています。これは、保険を独立した商品として販売するのではなく、他の商品やサービスの購入プロセスに「組み込む」形で提供するモデルです。

エンベデッド保険の具体例分類提供される価値
Tesla損害保険自動車購入時に、運転データに基づいた最適な保険が自動的に付帯。
Airbnb損害保険宿泊予約プラットフォームを通じて、ホスト向けの損害保険が自動的に提供される。
スマートウォッチ生命・医療保険ウェアラブルデバイスから得られる健康データに基づき、重篤な疾病に対する保険が提供される [5]。

エンベデッド保険の市場規模は、2025年には世界で2,109億ドルに達すると予測されており、2030年には9,500億ドルを超える巨大市場へと成長する可能性があります [6]。このモデルは、顧客が意識することなく、必要な保障を最適なタイミングで手に入れられるという、全く新しい顧客体験を提供します。

日本においても、損害保険総研のレポートでは、2030年までに3兆ドル以上の市場規模に達する可能性があると指摘されており [7]、今後の成長が最も期待される分野の一つです。

結論:日本の保険業界がとるべき道

世界の保険業界は、「生損保の融合」と「保障から予防へ」という不可逆的な構造変革の渦中にあります。この変革の根底にあるのは、デジタル技術の活用と、顧客中心の価値創造への転換です。

米国、中国に次ぐ世界第3位の巨大市場である日本の保険業界も、この潮流から無縁ではいられません。しかし、市場の成熟度や規制環境の違いから、欧米の模倣ではない、日本独自の変革モデルを構築する必要があります。

後の鍵となるのは、以下の3点です。

  1. 予防サービスの収益化: 予防サービスを単なる付帯サービスではなく、独立した収益の柱として確立するビジネスモデルを構築すること。
  2. エコシステムの構築: 規制の壁を乗り越えるため、異業種(テクノロジー企業、ヘルスケア企業、モビリティ企業など)との積極的な提携を通じて、顧客に新たな価値を提供するエコシステムを構築すること。
  3. データ活用の高度化: 収集したデータを活用し、よりパーソナライズされた予防サービスや、エンベデッド保険のような新たな商品を開発すること。

保険会社が、単に「起きてしまった損害を補う」存在から、「顧客一人ひとりのリスクに寄り添い、損害を起こさないために働きかける」パートナーへと進化できるか。その挑戦が、日本の保険業界の未来を左右することは間違いありません。

参照元

[1] 金融庁. (2025). 2025 保険モニタリングレポート. https://www.fsa.go.jp/news/r7/hoken/20250704/02.pdf

[2] Gallagher Re. (2025). Japan’s non-life insurance market strengthens through reforms and reinsurance adjustments. https://www.reinsurancene.ws/japans-non-life-insurance-market-strengthens-through-reforms-and-reinsurance-adjustments-gallagher-re/

[3] Japan Insights. (2025). 日本保険市場、2033年に3億7,030万米ドル到達見込み. https://japaninsights.jp/japan-insurance-market/

[4] Deloitte. (2025). Predict and prevent risk management. https://www.deloitte.com/us/en/insights/industry/financial-services/financial-services-industry-predictions/2025/predict-and-prevent-risk-management.html

[5] BCG. (2025). Embedded Insurance Success: Get Your Tech Stack Right. https://www.bcg.com/publications/2025/embedded-insurance-success-get-your-tech-stack-right

[6] Fintech Global. (2025). What is Embedded Insurance 2.0? The future of effortless coverage. https://fintech.global/2025/04/22/what-is-embedded-insurance-2-0-the-future-of-effortless-coverage/

[7] 損害保険総研. (2024). 組込型保険(Embedded Insurance)の展望と課題. https://www.sonposoken.or.jp/reports/wp-content/uploads/2024/12/sonposokenreport149_1.pdf

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